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東京地方裁判所 平成10年(行ウ)66号 判決 1999年6月09日

原告

セメダイン株式会社

右代表者代表取締役

本郷美宏

右訴訟代理人弁護士

清水謙

被告

中央労働委員会

右代表者会長

花見忠

右指定代理人

菅野和夫

外三名

被告補助参加人

CSUフォーラム

右代表者議長

小林邦夫

右訴訟代理人弁護士

徳住堅治

山内一浩

君和田伸仁

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、参加によって生じたものを含め、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告が、中労委平成八年(不再)第二五号事件について、平成一〇年三月四日付けでした命令を取り消す。

第二  事案の概要

本件は、原告が、被告補助参加人(以下、単に「補助参加人」という。)との団体交渉に応じることを命じた被告の救済命令について、その取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、接着剤、シーリング剤、特殊塗料、粘着テープ等の製造販売を業とする株式会社である。

2  補助参加人は、平成五年六月八日、原告に対し、定年延長に伴う担当職Bに対する経過措置の廃止、スタッフ管理職手当の新設を交渉事項とする団体交渉の申入れをし、さらに同年一一月一九日、担当職Bの本人給引下げの撤回を右交渉事項に加えて団体交渉の申入れをしたが、原告は、これらの団体交渉の申入れのいずれにも応じなかった。

3  東京都地方労働委員会は、補助参加人が原告を相手方としてした救済申立て(都労委平成六年(不)第一号事件)について、平成八年五月二八日付けで別紙一のとおりの初審命令を発した。

4  被告は、原告が補助参加人を相手方としてした再審査申立て(中労委平成八年(不再)第二五号事件)について、平成一〇年三月四日付けで別紙二のとおりの再審査命令(以下「本件命令」という。)を発した。

二  争点

1  補助参加人の救済申立資格

2  団体交渉拒否の正当性

三  当事者の主張の骨子

1  原告

(一) 補助参加人の救済申立資格について

補助参加人については、そもそも労働組合としての存在に疑問があるし(後記(二)(1)参照)、労働組合法二条ただし書一号にいう「使用者の利益を代表する者」(以下「利益代表者」という。)が含まれていないことを被告に対して立証してもいない。

以上の事実を看過して発せられた本件命令には、労働組合法五条一項本文に違背して補助参加人の救済申立資格を肯定した違法がある。

(二) 団体交渉拒否の正当性について

(1) 補助参加人は、原告に対し、正式に、組合結成及び組合名称の変更の通知や組合規約の提出をしたことがなく、また、組合員名簿の提出をしたこともない。さらに、補助参加人は、原告に対し、平成三年六月二六日、事実上組合結成の通知をしてから、約二年間もの期間にわたって、労働条件の改善に関する要求や団体交渉の要求を全くしていない。

以上の事実からすれば、補助参加人については、そもそも労働組合としての存在に疑問がある。

(2) 原告においては、ラインでは原則として課長以上が、スタッフでは原則として部長付及びスタッフ管理職以上が、それぞれ、利益代表者に当たるものと考えられる。

補助参加人の議長である小林邦夫(以下「小林」という。)は、セメダイングループの一つであるセメダイン神奈川販売株式会社の営業部長として、同会社の社長に次ぐナンバー二の地位を有し、企業における利益の源泉である売上高を左右する営業政策の立案、実施の中枢にあって、製品販売に関する営業全般を総括管理しているから、利益代表者に当たる。また、補助参加人の副議長である山村喜一郎(以下「山村」という。)は、原告営業部のスタッフ管理職として、原告の重要な販売戦略を盛り込んだ販売予算の編成に直接関与しているから、同様に、利益代表者に当たる。そして、小林や山村らが組合員であることによって、原告の労務、人事の方針や重要な経営情報が筒抜けになり、原告に予期しない損害が生じる可能性がある。

仮に、小林及び山村のいずれもが利益代表者に当たらないとしても、補助参加人に利益代表者が含まれていないか否かは、組合員名簿の提出によって全氏名が公表され、その個々人について現実にいかなる権限が原告から付与されているかが検証されなければ分からないのに、補助参加人は、原告に対して、役員の氏名を公表するのみで、他の組合員の氏名を明らかにすることを拒否し続けている。

以上のとおり、補助参加人には利益代表者が含まれているものであって、少なくとも、原告に対して、利益代表者が含まれていないことを明らかにしていない。

(3) このように、補助参加人については、そもそも労働組合としての存在に疑問があるし、利益代表者が含まれ、少なくとも、原告に対して利益代表者が含まれていないことを明らかにしてもいないから、原告は、以上のことを理由として、補助参加人が労働組合法に適合する組合(法内組合)であることの証明がない限り団体交渉に応じられないとの態度を採ったものであって、原告の団体交渉の拒否には、労働組合法七条二号にいう「正当な理由」がある。

したがって、原告に対して補助参加人との団体交渉を命じた本件命令には、労働組合法七条二号に違背した違法がある。

2  被告

本件命令に係る処分理由は、本件命令に係る命令書(別紙二)に記載のとおりであり、被告の事実認定及び判断に誤りはない。

3  補助参加人

(一) 補助参加人の救済申立資格について

労働委員会が行う労働組合の資格審査の方法ないし手続並びに審査の結果については、使用者はこれらの瑕疵を理由として救済命令の取消しを求め得ず、被告が、補助参加人の資格審査において、労働組合法に適合しているとの判断をした以上、本件訴訟において利益代表者の範囲の問題は審理の対象とはなり得ない。

(二) 団体交渉拒否の正当性について

(1) 平成三年六月二六日、補助参加人の当時の代表者である風間光政(以下「風間」という。)議長は、橋本忠治郎(以下「橋本」という。)書記長を同行し、東京都品川労政事務所の職員二名の立会いの下に、原告の牧雄取締役人事部長(以下「牧部長」という。)らに対して、補助参加人の結成通告書及び組合規約を交付した。さらに、補助参加人は、同年七月四日、補助参加人の基本要求をまとめた申入事項メモを牧部長に交付して、「社長に直接会いたい」旨申し入れた。それにもかかわらず、これらの申入れに対する原告からの返答がないので、同年一〇月二三日、補助参加人は、改めて、原告に対して、基本要求の申入れを繰り返した。補助参加人は、その後も折りに触れて、原告に対して種々の申入れをしているが、原告は補助参加人からの書類の受領を拒絶したり、申入れを全く無視する態度をとり続けてきた。このような経過からして、補助参加人の労働組合としての存在を否認する原告の主張は、団体交渉拒否のための単なる言い掛かりに過ぎない。

(2) 労働組合法が利益代表者の参加する労働組合に対し、同法が規定する保護を及ぼさないとしているのは、労働組合の自主性確保を促進するためであって、使用者の便宜を図るものではないし、同法の資格要件を満たしていなくとも、憲法二八条の効果として団体交渉権の保障が及ぶから、労働組合法の資格要件に疑義があることは、団体交渉拒否の「正当な理由」にはなり得ない。

また、本件の団体交渉事項との関係では、補助参加人の組合員の氏名全員を明らかにする必要はないから、原告が組合員名簿の不提出の問題を持ち出すことは、団体交渉拒否の口実に過ぎない。

第三  当裁判所の判断

一  争点1(補助参加人の救済申立資格)について

1  原告は、本件命令には労働組合法五条一項本文に違背して補助参加人の救済申立資格を肯定した違法がある旨主張する。

労働組合法五条の立法趣旨は、労働委員会に同法二条及び五条二項の要件を欠く組合の救済申立てを拒否させることにより、間接的に、組合が右各法条の要件を具備するように促進することにあると解される。この点から、同法五条は、労働委員会に、申立組合が右要件を具備するかどうかを審査し、この要件を具備しないと認める場合にはその申立てを拒否すべき義務を課している。しかしながら、この義務は、労働委員会が、組合が右各法条の要件を具備するように促進するという国家目的に協力することを要請されているという意味において、直接、国家に対して負う責務にほかならず、申立資格を欠く組合の救済申立てを拒否することが、使用者の法的利益の保護の保障の見地から要求される意味において、使用者に対する関係において負う義務ではないと解される(最高裁昭和三二年一二月二四日第三小法廷判決・民集一一巻一四号二三三六頁参照)。

2 そうすると、補助参加人の救済申立資格の不備を問題とする原告の前記主張は、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として本件命令の取消しを求めるものにほかならないから(行政事件訴訟法一〇条一項)、その余の点について判断するまでもなく失当というべきであって、採用することができない。

二  争点2(団体交渉拒否の正当性)について

1  原告は、補助参加人はそもそも労働組合としての存在に疑問があるし、補助参加人には利益代表者が含まれ、少なくとも、原告に対して利益代表者が含まれていないことを明らかにしてもいないから、補助参加人との団体交渉の拒否には「正当な理由」がある旨主張する。

そこで、まず、労働組合としての存在に疑問がある旨の原告の主張を検討すると、争いのない事実(前記第二の一)、証拠(乙三四ないし三七、四一ないし四三、七九、八一、八二、九一、九七、一〇四ないし一〇六、一二六、一二九、一三二、一三五)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 平成二年四月の人事異動で管理職の定年退職者が一一名にのぼったのを契機に、当時建築資材事業部販売第五課長であった風間、特別プロジェクトチームの担当職(担当次長)であった橋本らは、管理職定年制の実施により、一般職員より労働条件の劣る担当職(元ラインの管理職)が増大し、他方、原告が既存の労働組合(セメダイン労働組合)の組合員資格を副参事まで認めたことから、一般職と管理職との境界があいまいになり、原告における管理職の地位の低下と不安定化が進んでいると認識するようになった。そこで、風間、橋本らは、同時期ころ、管理職の権利・雇用・地位を守るため、管理職による新たな労働組合を結成する必要があると考え、東京都品川労政事務所に相談するなどして、その準備活動を始めた。

(二) 平成三年六月一〇日、蔵前工業会館において、約二〇名が参加して補助参加人の結成総会が開催され、組合規約及び結成趣意書が採択されるとともに、議長に風間、副議長に山田皓三(以下「山田」という。)と小林、事務局長に橋本が、それぞれ選出された。

右組合規約には、① 名称及び事務所につき、この団体は「CSU経営改革フォーラム」と称し、事務所を東京都品川区東五反田<番地略>に置く(一条)、② 組合員の範囲につき、この組合は原告の管理職(スタッフ管理職を含む。)で組織し、利益代表者を含めない(二条)、③ 目的及び活動につき、この組合は、組合員の団結と総意に基づき、組合員の生活と雇用を守るとともに、労働条件の維持改善、管理職としての地位並びに職務の遂行に必要な権利の拡大向上、経営の民主化を目的として、その目的の達成に必要な活動を行う(三条)、④ 機関につき、組合に総会、評議員会及び幹事会を置く(八条)、⑤ 総会は組合の最高決議機関として組合規約、方針など組合の目的達成に必要な重要事項について審議決定する、総会は組合員全員の参加により年一回定期に開催する、総会の召集は幹事会の議を経て議長が行う(八条)、⑥ 総会に次ぐ決議機関として評議員会を置き必要に応じて開催する、評議員会の構成、開催及び召集手続については別に定める(九条)、⑦ 幹事会は組合の執行機関として総会及び評議員会の決議事項を処理するとともに、組合の日常運営に当たる、幹事会は議長、副議長、事務局長及び幹事で構成し、月一回定期に、また必要に応じて臨時に開催する(一〇条)、⑧ 組合のすべての会議は構成員の過半数の出席により成立し、出席者の過半数の賛成により議決する、ただし、組合規約の改廃については総会の出席者の三分の二以上、組合の解散については組合構成員の四分の三以上の賛成を必要とする(一一条)、⑨ 組合の役員として議長一名、副議長若干名、事務局長一名、幹事若干名を置く(一二条)、⑩ 役員の選出は組合員の直接無記名投票により行う、役員の任期は定期総会から定期総会までの一年間とし、再選を妨げない(一三条)、⑪ 組合員が脱退し又は除名されたときは、この組合に関する一切の権利を失う(一七条)、⑫ 組合の財政は入会金三〇〇〇円、月次組合費二〇〇〇円により運営する(一八条)、⑬ 組合財産の管理は幹事会が責任を負い、何人に対してもこれを返還しない(二〇条)、⑭ 規約の改廃につき、この規約の改廃は総会で行う(二一条)、などの定めが設けられている。

その後、同年一一月七日開催の臨時総会で採択された組合規約の改正により、補助参加人の名称が現在の「CSUフォーラム」に変更されるとともに、月次組合費が二〇〇〇円から一〇〇〇円に変更され、さらに、平成六年二月二四日開催の定時総会で採択された組合規約の改正により、役員に会計一名が加えられるとともに、月次組合費が一〇〇〇円から再び二〇〇〇円に戻された。また、平成七年七月二七日の組合規約の改正により、組合員の範囲が、管理職及び管理職資格者に変更された。

なお、右の結成趣旨書には、「管理職は常に経営者と労働組合の挟撃を受ける弱い立場にある。したがって、管理職の連帯を支える組合づくりがすべての出発点となる。例えば、① 経営者の人事権に対抗する、② 管理職の権利・雇用・地位を守る、③ 企業を乗っ取りの危機から守るためには管理職の連帯に対する組織的保障が必要であり、そのためには管理職組合を結成して拠点とし組織的基盤とするのが法的にも望ましい。」などの記載がある。

(三) 平成三年六月二六日、風間は橋本を同行の上、東京都品川労政事務所の職員も同席し、原告の牧部長及び伊藤次夫労務グループ課長(当時。その後人事部次長兼労務グループ課長に就任した。)に面会して、組合規約及び労働組合結成通告書を手渡すとともに、右組合規約は結成大会で承認されている旨伝えた。右結成通告書には「管理職で構成する労働組合…を結成しました」との記載があり、役員四名(風間、山田、小林、橋本)の役職と氏名が記載されていた。

(四) 同年七月、補助参加人から「FORUMよりのメッセージ」第一号が発行され、これにより、原告に対して組合結成の通知をした旨が組合員らに周知された。

(五) 同月四日、風間は橋本を同行して牧部長に面会し、① 不当労働行為の回避に努めること、② 管理職にかかわる一切の事項について補助参加人と話し合うこと、③ 一般従業員の労働組合であるセメダイン労働組合と管理職の組合である補助参加人を同等に取り扱い、差別しないことの三点の申入事項を記載した文書を示して、社長に取り次ぐよう要請したが、牧部長はこれに応じなかった。同年一〇月二三日にも、補助参加人から、同一内容の文書による申入れがされたが、原告はこれに回答しなかった。

(六) 同月四日、原告は、山村(現在は補助参加人の副議長)を財務グループ課長から人事部付に配置替えした。補助参加人は、同月二一日、この人事異動は、山村が原告の顧問弁護士委嘱に関する情報を補助参加人に漏洩したことを理由とするもので、補助参加人の活動に対する不当介入であるとして、説明を求める旨の文書による申入れをした。

(七) 平成五年六月八日、補助参加人は、原告に対し、① 定年延長に伴う担当職Bに対する経過措置の廃止(資格手当減額措置の廃止、住宅手当の不支給措置の廃止、定期昇給の実施、賞与減額措置の廃止)、② スタッフ管理職手当の新設を交渉事項とする団体交渉の申入れをし、さらに同年一一月一九日、担当職Bの本人給引下げの撤回を右交渉事項に加えて団体交渉の申入れをした。しかし、原告は、これらの団体交渉の申入れに応じなかった。

(八) 平成六年七月までに、補助参加人から、情宣活動として「FORUMよりのメッセージ」が二四回発行され、管理職及び元管理職を合わせて約五〇名ないし六〇名のほか、セメダイン労働組合の組合員の一部にも配付された。また、同時期までに、補助参加人から、「FORUMよりのアピール」が八回発行され、前記文書よりも対象範囲を広げて配付された。

以上の認定事実によれば、補助参加人は、「労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体」、すなわち労働組合法二条本文にいう労働組合として組織され、その後も活動を継続している団体であることが明らかであって、労働組合としての存在に疑問がある旨の原告の前記主張は採用することができない。

2  次に、補助参加人には利益代表者が含まれ、少なくとも原告に対して利益代表者が含まれていないことを明らかにしていないから団体交渉の拒否に正当な理由がある旨の原告の主張を検討する。

(一)  労働組合法七条二号は、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」を不当労働行為としている。右規定が、二条において定義された特定の意味内容を前提とする「労働組合」の文言を用いず、これと比較してより広がりを持った意味内容を許容し得る「労働者の代表者」という文言を用いていること、労働組合法は、憲法二八条の規定をうけて、「労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること」等を目的として制定されたものであるが(労働組合法一条参照)、憲法の右規定上、「勤労者」すなわち労働者である限りにおいては、利益代表者といえども、団結する権利、団体交渉その他の団体行動をする権利を保障されているものと解されること、それにもかかわらず、労働組合法が、二条ただし書一号のような規定を置いたのは、同号掲記の労働者の参加を許せば組合の自主性が損なわれるおそれがあるとの見地から、このような労働者の参加を許す組合の救済申立てを労働委員会に拒否させることを通じて組合が右労働者の参加を許すことを控制させ、もって、使用者と対等の立場で交渉することができる組合を育成しようとする一種の後見的配慮に基づくものと考えられるが、本来、組合員の範囲は組合自身が決定すべきことであり、右のような後見的配慮を働かせる場面にはおのずから限度があるといわざるを得ないこと、以上のことにかんがみれば、利益代表者の参加を許す労働組合であっても、労働組合法七条二号の「労働者の代表者」に含まれるものであって、ただ、このような労働組合は、使用者から団体交渉を拒否された場合でも、同法二条の要件を欠くため、五条一項により労働委員会による救済手続を享受することはできないものと解するのが相当である。そして、労働組合法七条二号の規定は労働組合と使用者との間における私法上の効力を有する規定としての性質をも持ち、労働委員会が救済命令を発するための要件を定めた規定としての性質を持つにとどまるものではないのであるから(最高裁平成三年四月二三日第三小法廷判決・裁判集民事一六二号五四七頁参照)、右規定の意義を以上のように解することには合理性があるということができる。

このように、利益代表者の参加を許す労働組合もまた、労働組合法七条二号の「労働者の代表者」に含まれるのであるから、仮に補助参加人に利益代表者が参加していたとしても、また参加していないことを使用者に対して明らかにしていないとしても、そのこと自体は、当然には団体交渉拒否の正当な理由にはならないことが明らかである。

(二)  もっとも、団体交渉に当たって使用者側の担当者となるべき者が存在しなくなる場合とか、利益代表者が当該交渉事項に関して使用者の機密事項を漏洩している場合など、労働組合に利益代表者が参加していることに起因して適正な団体交渉の遂行が期しがたい特別の事情がある場合には、右のような特別の事情の存在は使用者側の団体交渉拒否の正当な理由を構成するものと解されるが、このような特別の事情の存在は、事柄の性質上、使用者において、これを具体的に明らかにする責任があるものというべきであって、右特別の事情の存在を具体的に明らかにしないまま団体交渉を拒否することは、正当な理由を欠くものといわざるを得ない。

これを本件についてみると、原告は、小林や山村らが組合員であることによって、原告の労務、人事の方針や重要な経営情報が筒抜けになり、原告に予期しない損害が生じる可能性がある旨主張し、証人松野孝昭の証言中にはこれに沿う部分があるが、右証言内容は、漠然としたおそれがあるというものに過ぎず、他に特別の事情の存在についての主張立証はない。

(三)  加えて、次に検討するように、そもそも小林らは利益代表者にも該当せず、その他、補助参加人に利益代表者が参加していることを認めることはできないから、原告の主張はこの点からも失当である。

(1) 証拠(乙三三、五三、五八)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 原告は、本社内に、総合企画部、総務部、人事部、業務部、営業部、HI事業部、輸送機事業部、住宅資材事業部、新規事業開発部、開発部、品質保証部、生産企画部及び接着技術相談センターを、本社外に、東京、大阪、名古屋の各支社と茨城、三重、衣浦の各工場を置いている。

また、総合企画部、総務部、人事部、開発部、品質保証部及び生産企画部には、「課」に代えて「グループ」が設けられており、このうち、総合企画部には、企画グループ、情報システムグループが、総務部には、総務グループ、経理グループ及び財務グループが、人事部には、人事グループ、労務グループが、それぞれ設けられている。そして、総合企画部企画グループは、中・長期経営計画の立案、年度経営方針の立案、組織計画の立案等を、同情報システムグループは、情報システムの企画、提案及び開発等を、総務部総務グループは、取締役会及び株主総会の事務局、社内規定の制定及び管理等を、同経理グループは、総合予算の立案、決算政策の立案等を、同財務グループは、資金計画の立案、資金の調達及び運用計画の立案等を、人事部人事グループは、要員計画の立案、採用、配置及び退職に関する業務、人事考課に関する事項を、同労務グループは、労務に関する全社的統括、労務管理、労働組合に関する業務等の各業務を行うこととされている。

イ 原告は、役員の下に、本部長、副本部長、部長(工場長、支社長)、次長、課長(営業所長)、課長代理、係長及び班長等の職位を設けており、課長代理(所長代理)以上の職位を管理職としている。

ウ 原告は、昭和五八年七月一日、セメダイン労働組合と、従業員の定年を55.5歳から六〇歳に延長することを合意したことに併せて、管理職定年制(ラインの部長、次長及び課長らを対象として、一定の年齢に達することによりその職を離れる制度)及び担当職を設けた。

担当職には、① ラインの管理職で管理職定年制を適用された者、② 資格制度上、主事補以上の資格に昇格したが、ラインの管理職には任用されなかった者、③ 本人の適性又は会社の都合によって管理職定年前にラインの管理職を離れた者が任用される。右の①ないし③により任用される担当職は、いずれも部下を持たないスタッフ職である。この担当職は、当初年齢により五六歳未満の者を担当職A、五六歳以上の者を担当職Bと区分していたが、この区分はその後廃止された。

原告の人事制度の枠組の上で担当職と呼ばれている者は、職務規程の上では部長付又はスタッフ管理職のいずれかに位置づけられている。

エ 補助参加人は、組合規約上、管理職及び管理職資格者を組織対象者とするが、利益代表者は対象者としないものとし、部門長(部長、工場長、支社長)、課長のうち、総合企画部企画グループ課長、総務部総務グループ課長、同経理グループ課長、人事部人事グループ課長、同労務グループ課長がこれに該当するとしている。また、利益代表者以外の者であっても、労働組合との団体交渉の担当者、セメダイン労働組合と原告とで組織する人事制度委員会、職級調整委員会、制度改革委員会、懲戒委員会の原告側委員となる者は、その任にある期間中は組合員資格を失うとしている。

オ 次長は、職務規程上、① 部門長の業務遂行を補佐し、部門長の決裁事項を代行する、② 部門長の命を受けて特定業務を分担し、自ら遂行するものとされている。なお、原告が部門長の補佐として次長を置くとは限らず、これを置く場合でも、課長を兼務することが多い。本件命令発令時に次長ポストが置かれていたのは、総合企画部、住宅資材事業部、開発部及び茨城工場の四か所五名である。

課長は、職務規程上、① 所属長の命により課内業務を遂行する、② 所属長に対し分掌業務に関する助言、提案を行う、③ 課長の権限を超える事項について原案を作成し、所属長の決裁を受ける、④ 課員を指揮監督する、⑤ 必要に応じて特定業務を自ら遂行するとされている。

担当職のうち職務規程で部長付とされる者は、職務規程上、① 部門内特定業務を分担し、自ら遂行する、② 部門長と一体となって、部門長の業務の遂行を補佐する、③ 部門長から委任された範囲内で、部門長に準ずる職務を行う、④ 部門長に対し、特定業務に関する専門的な助言、提案を行うとされている。

担当職のうち職務規程でスタッフ管理職とされる者は、職務規程上、① 部門内の特定業務を分担し、自ら遂行する、② 所属長と一体となって所属長の業務の遂行を補佐する、③ 所属長から委任された範囲内で所属長に準ずる業務を行う、④ 所属長から委任された範囲内で所属の各職位を指揮監督する、⑤ 所属長に対し特定業務に関する専門的な助言、提案を行う、⑥ 所属長の特命事項を処理するとされている。

カ 原告の管理職、担当職を除く一般職の従業員の昇給昇格に際して行われる人事考課は、原則として、課長が第一次考課を、部門長が第二次考課を行い、その後人事部長が全社的調整を行う。この間、次長は人事考課に関与しない。

管理職及び担当職の人事考課は、部門長が第一次考課を、部門を担当する役員が第二次考課を行い、その後社長が全社的調整を行う。

キ 原告の決裁規程上、一般職の従業員の採用、配属及び人事異動は、人事部長が立案し、労務担当取締役が決裁することとされているが、決裁権限を人事部長に委譲できることになっており、実際には、一般職の従業員の人事異動を行う場合、人事グループ課長が関連する部門長と調整して原案を作成し、人事部長が決裁している。

管理職及び担当職の人事異動の場合は、人事部長が部門を担当する役員と調整して原案を作成し、労務担当取締役の決裁を受けることになっている。

また、雇用条件の基本方針、採用計画は、人事部長が立案し、取締役会が決定する。組織に関すること、中・長期及び単年度の経営計画等に関することは、総合企画部長が立案し、取締役会で決定する。

ク 原告がセメダイン労働組合と団体交渉を行う際の会社側の担当者は、取締役、人事部長、労務グループ課長、支社及び工場の総務課長並びに開発部研究管理グループ課長である。

ケ 小林は、原告の関連会社の一つであるセメダイン神奈川販売株式会社の営業部長である。同社の従業員は四名であり、そのうち小林を含む二名は、原告からの出向者である。また、山村は、原告営業部のスタッフ管理職であり、販売予算編成方針の立案、販売予算編成及び管理の職務を行っている。

(2) 以上の認定事実によれば、労働組合法二条ただし書一号所定の「雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者」として利益代表者に該当するのは人事部長のみということができるところ、同部長は補助参加人の組織対象者となっていないことが明らかである。

次に、前記認定事実によれば、人事及び労務に関する権限は、人事部に集中していると認められ、特に補助参加人の組織対象者である管理職及び担当職については、人事考課の第一次考課を行うのも部門長であることからすると、次長、課長及び担当職が一般的に原告の労働関係についての計画と方針に関する機密の事項に接する労働者に該当するということはできないが、前記の各担当業務に照らせば、人事部、総合企画部及び総務部の三か部の次長、課長及び担当職は、原告の労働関係についての計画と方針に関する機密の事項に接していると認められ、右各職位にかんがみ、同号所定の「使用者の労働関係についての計画と方針に関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にてい触する監督的地位にある労働者」として利益代表者に該当するということができる。

そして、これら利益代表者のうち、総合企画部企画グループ課長、総務部総務グループ課長、同経理グループ課長、人事部人事グループ課長、同労務グループ課長は、そもそも補助参加人において組織対象者としておらず(前記(1)エ)、また、証拠(乙一四九、一七六、一七七)及び弁論の全趣旨によれば、人事部、総合企画部及び総務部に属する他の次長(総合企画部次長)、課長及び担当職は、補助参加人に参加していないことが認められる。

このほか、補助参加人に利益代表者が参加していることを示す事情を認めるに足りる証拠はない。

(3) 以上の次第で、関連会社の部長である小林や原告営業部のスタッフ管理職である山村は利益代表者には該当しないことが明らかであるし、その他、補助参加人に利益代表者が参加していることを認めることはできない。

3  なお、弁論の全趣旨によれば、補助参加人が原告に対して組合員名簿の提出をしていないことが認められるところ、交渉事項の内容から組合員の特定が不可欠である場合等には、組合員名簿の不提出が団体交渉拒否の正当な理由を構成することもあり得ないではないが、原告からは、このような観点からの組合員名簿の提出の必要性について、何らの主張立証もない。

4  以上によれば、原告の団体交渉拒否は、正当な理由を欠くものとして、労働組合法七条二号の不当労働行為を構成するものというべきである。

三  結論

以上のとおり、本件命令に違法はなく、その取消しを求める原告の請求は理由がない。

よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一一年一月二〇日)

(裁判長裁判官福岡右武 裁判官飯島健太郎 裁判官西理香)

別紙一 初審命令の主文<他は省略>

被申立人セメダイン株式会社は、申立人CSUフォーラムが平成五年六月八日付および同年一一月一九日付で申し入れた担当職Bの資格手当の減額措置を廃止することおよびスタッフ管理職手当を新設すること並びに平成五年一〇月以降における担当職Bの本人給引下げを撤回すること等を議題とする団体交渉について、申立人組合が別表(掲載省略)に掲げる役職に組合員がいない旨の文書を呈示した後は、これに応じなければならない。

別紙二 再審査命令の主文<他は省略>

Ⅰ 初審命令主文を次のとおり変更する。

再審査申立人セメダイン株式会社(以下「会社」という。)は、再審査被申立人CSUフォーラムが平成五年六月八日付けおよび同年一一月一九日付けで申し入れた団体交渉に、誠実に応じなければならない。

Ⅱ 会社のその余の再審査申立てを棄却する。

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